教育改革の動向


 1984年に設置された臨時教育審議会の第一部会は、突然「教育の自由化」を提案したが、第三部会(初等中等教育担当)等の強い反発があり、結局「教育の個性化」「個性重視の原則」が答申に盛り込まれることになった。

 それから約10年、90年代半ば以降、同審議会によって設定された改革路線は一挙に具体化し始めている。 その基調は教育のスタンス面では「個性重視」、教育の内容・方法・評価面では「生きる力」「ゆとり」「新しい学力観」(「新学力観」)「心の教育」、教育制度面では「規制緩和・弾力化」「ニーズに応じた多様化」などの標語に端的に表れている。特に制度面での弾力化・多様化の施策が目立っている。

 検討中のものも含めて列挙すれば、通学区制の弾力的運用、中学卒業認定試験の資格年齢の15歳への引き下げ、民間フリー・スクールの認定、中等教育学校の導入、高校における単位制の拡大や特色ある学科・総合学科の増設、大学飛び入学制の導入、小学校3年からの「総合的な学習の時間」の導入、社会人向け単位制大学や夜間大学院の開設、大学教員の選択的任期制の導入、一年制修士課程の創設 (大学審議会の提言)等である。

 その多くは、ほかに特別の影響を及ぼすことなく、当事者が選択を行い便益を得る機会を拡大するものであり、望ましい改革である。しかし、中等教育学校のように、中学受験の問題や学校格差の問題を義務教育段階にまで持ち込むことにより、他者やシステムに負の便益 をもたらす政策も少なくない。

 かつては文部省と日教組・教育界と政・財界との間には文部行政をめぐって緊張関係があったが、55年体制崩壊以降、批判勢力がほとんどなくなり、十分な理論的検討のなされないまま全体主義的ともいえる勢いで規制緩和路線を潰進している。

 何が必要かつ適切な改革で、何が危険な施策かを見極める青任がいま鋭く問われている。

臨時教育審議会(臨教審)


 1984年、中曽根元首相によって内閣総理大臣の諮問機関として設置され、87年までの3年間に4次にわたる答申を行った。

1)個性重視、

2)生涯学習体系への移行、

3)国際化・情報化など時代の変化への対応、

の三つを改革の基本理念として、多岐にわたる改革提言を行い、その後の教育改革の基本路線を改定した。

 教育改革の基本的考え方として、個性重視の原則、基礎・基本の重視、選択機会の拡大(以上、第1次答申)、自己教育力の育成、カウンセリング体制の充実(以上、第2次答申)などを提言した。

 また、その答申に基づいて具体化した重要な改革としては、大学審議会や生涯学習審議会の設置、初任者研修制度の創設、教員免許法の改正(免許状の種類の改編や社会人の活用等)、学位授与機構や国立学校財務センターやスポーツ振興基金の創設などがある。

 また、第3次答申における高校入試の多様化に関する提言を受けて、89年に学校教育法施行規則が改正され、調査書(内申書)なしの高校入試が可能になっていることも注目すベき点である。

「imidas'99より」
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